初めに〜ガイドまんさくの20代前半のブログです〜
今までのシーカヤックのプチ遠征や西表島の山での新たな滝や沢の発見や感動、達成感は
オリオンビールと愉快な仲間たちとの宴によって、すべてがその日のうちに洗い流されていた。
ワイワイやるのが好きなんです。
が、しかーし、旅から得たものや技術、経験までもオリオンビールによって
消化されていたことに最近になって気づいた。コレではイカーン!成長がない。というわけで
旅から帰ってきた興奮をそのまま残すべくオリオンビールと泡盛の誘惑をたって?頑張って
パソコンの前に向かってマップを開いている。
とっても長ーくなりますので時間がない方は後日に。
とっても暇な夕暮れにでもビール片手に、ホントバカだなーこいつは、、ってよんなー
よんなー〔のんびり〕見て頂ければ幸いです。
コレが為になるものかどうかはいざ知らず。人生のんびり回り道。無駄のない人生などなーい。
人から見ればどうでもいいような無駄なことに熱狂できるのが人間であると思う。
シーカヤックガイドまんさくの西表島周遊一人旅〜暗夜行〜
8/24 出発前
前日8/23までツアーは続いていたが今日8/24−27くらいまでスケジュールは空いていた。
28−29は西表島シーカヤックキャンプツアーが埋まっているので26日には戻ってこれるような
遠征プランを立てていた。
8/23の夜、西表島観光でガイドしている虻川氏〔通称アブちゃん、以降アブちゃんで〕に連絡を取る。
アブちゃんとは何回か遠征やキャンプに出ている。僕も人のことをあんまり気にしない、というか
人はどーでもいいたちなのだが〔自分を変えていくことに興味が向いているので〕
アブちゃんも自分改造に夢中であとはほっとけ、みたいなところが意外とあう気がする。
アブちゃんのスケジュールは明日24日はツアー入っているが25,26は空いているとのこと。
じゃー24日から僕は出るので、途中合流しよう!
24日は西表島うなり崎〔月が浜ビーチの北側〕からでてパイミ崎ー大原ルート。
25日は、アブちゃんとシーカヤックシングル2艇で波照間島へ。26日に
波照間島より戻り、大原港でアブちゃんと分かれ、ヨナラ水道経由で出発地西表島うなり崎に戻る。
気圧の谷間にあるから大気が不安定で天候がいままちだろうが、まームリせず状況がよくなかったら
波照間島から黒島に変更ということで、どうこのプラン?いいねーいいねー。、、乗ってきた。
昨日からの暑さにやられて、またもやベランダ逃避行。朝5時くらいにおきる。、、頭が痛い。
昨日は1人でワクワクしオリオンビールを少々飲みすぎた。んーいい天気になりそうだ。
夜明けと同時に出発が遠征の基本であると思ってはいるが、、眠い。連日のツアーの疲れも
こういう気合の入っていない休みの日に、ドカッとまとめて出てくるもんだ。もー少し寝よう。
西表島半周程度だったら、のんびり出発してもいいだろう。
9時くらいに目が覚める。7:00には目覚ましかけていたのだが全く気づかず、いい近所迷惑だ。
完全寝坊。やばい。これ以上時間がたつと昼過ぎ出発になってしまう。なんとしてもそれだけは
避けねば。
あわてて、準備。そういえば準備もしていなかった。むむ、、なんちゅうだらしなさ。
とりあえずキャンプツアーのときの準備と似た感じで、、よし出よう。いや待てよ。せっかく鹿川方面通るから
トローリングしていこう。あっちは大物多いもんな。で、あわてて刺身包丁とソフトクーラー、醤油、ワサビを
追加。車に詰め込み出発。スーパーによってオニギリ4つほど、胃袋にかきこむ。と予備でおにぎり買って
ソフトクーラーの中へ。
まーこんなもんでいいかなとスーパーを出る。今考えれば、なめた準備だ。無駄なものばっかり、、のちに
カロリー不足に陥る。
11:00 西表島うなり崎〔月が浜ビーチの北側〕より出発
詰め込んだものは20kgほど。ペリカンケースに詰めたレスキューグッズと救急用品3ケース。
いざというときのスノーケル3点セット。キャンプをより楽しくセット5kgくらい。飲み物10L程度。
着替えやタープ最小限。防水携帯。GPS.アンカー。マップチャートなどなど。
東よりの風4−5m、そよそよ、波高1,5m。大潮、満潮07:16 193cm 干潮13:58 40cm
満潮20:09 170cm。
沿岸は漕ぎにくい潮時なので西表島沖合いを大きく回っていこう。
天候、多少雲が多いが晴れている。サー出発。
西表島最北端より出発し西から回り南の大原港へ向かうのが初日のルート。
外離れ島のリーフにかからないようすこし西に回る。GPSはいざというときの為に今回は付けずに行こう。
目視オンリーで。滑り出し快調!!時速9kmくらいは出ていた。
12:00 西表島外離れ島沖合い
とっても快調。1時間で8−9km。当初の考えでは、うなり崎よりスタートしパイミ崎通過が3時間くらい。
鹿川まで1時間。豊原ー大原まで3時間くらいかな。まーのんびり行っても7時までには大原港に着くだろう。
って考えていた。
計算どうりだし天気もいいし、おまけにべたなぎに近い。多少うねりがまとまり、スピードも乗りやすい。
最上の鼻歌パドリング日和。
13:00 西表島網取湾の沖合い
西表島網取湾のリーフは北に大きく突き出している。なるべく浅く複雑な流れになる場所は漕ぎたくない。
深いところのほうが漕ぎやすいし、流れも読みやすい。万が一の暗礁衝突もない。
外離れ島通過以降はパイミ崎より西に見える仲の神島にあわせて漕いでいた。西表島リヤス式海岸の
の大胆に切れ込んだ景色を楽しみながら漕いでいたので、おのずと西表島に近寄っていたようだ。
見事にリーフの潮目につかまる。
パドルをしたから掴まれるようで漕ぎにくい。今漕いでいるところの流れと2mほど先の流れが
まったく逆だったりする。カヤックのバウ〔先端部〕とスターン〔後部〕がばらばらに向く。
スケート初心者がリンクの上で戸惑うのと似た感じだ。行きたい方向に行けない。
しばし苦戦。腰の回転を使ったパドリングだとバランスを崩しやすいので体の中心軸と視点を動かさない
回転数の早い軽いパドリングに切り替える。少々てこずったが脱出。
カヤック漕ぐのには適していないがサバ二〔漁船〕がやたら多い。そういえば
漁師さんに釣りでここに連れてきてもらってたなー。思わず、竿を握っていた。アー投げたい。しかし
今はどれくらい漕げるか分からないし、この天候が持つかどうかも分からない。それに釣れたとしても、
大原港に着いたときには、もー刺身では食えない状態だ。
さっき釣れたばっかだよってアブちゃんに試食させてみたところでそれが食えるかどうかの参考にはならないはずだ。
彼は線が細く体力なさげに見えるが生命力だけは群を抜いているから痛んだ刺身程度で当たるはずもない。
100km遠征1日でトライのときも2Lのペットボトル1本しか持ってこなかった野郎だ。
しかも中身無色透明。水って言ってたが泡盛かもしれん。
いやー大丈夫!オレさー、運だけはいいから、、、って。
ハッキリ言って訳分からん!酔っ払いと漕ぐつもりはない。
温厚な僕も、あんときゃーさすがにプチッときた。こっちは20Lの予備タンクとスポーツドリンクやプロテイン、など
10L以上用意してたのに。1滴も分けてやらんぞ!って思ってたが、結局がばがば飲み干されたもんな。
まーいい。以前のことは忘れて漕ごう。考えてたらなんか腹立ってくるし!とりあえずパイミ崎回って豊原あたりで時間があったら
、そのとき釣りでもしよう。釣り場はいっぱいある。漕ぐのに集中しよう。
14:00 西表島最西端パイミ崎通過
さっきから気になっていたのだが、やたらトンボが多い。海面にも力尽きたトンボがいっぱい浮かんでいる。
こいつらはどこから来てどこに行きたいのかな。勉強不足でよく知らない。でも頑張って飛び続けている。
こんな海ど真ん中で、、こいつらも必死に生きているってことだけは感じ取れる。
どっかで休み取れる場所でもあればね、、
てなこと考えながらパドリングしていると背後に視線を感じる。
なんかいる。よくみれば竿の先で休憩しているお調子もんのトンボが1匹。
僕の後ろに乗っていいのはビッケだけだがこの際多めにみてあげよう。
お前もこの旅の仲間ってことだ。ゆっくり休めよ。
崎山から西表島の最西端パイミ崎が望める。断崖絶壁が地上から海中深く切れ込んでいるリーフエッジの狭い
ここの地形はそんなに沖合いに大回りしないでよく近道を通れるというメリットもあるが
北からの流れと南からの流れが海中深く流れ込む複雑で強烈なダウンカレントが発生する
西表島最大の難所といっていい。
こんなべた凪に近い日でもおそらく流れは強烈だろう。今のうちに休憩もかねて
写真でも撮っておくことにする。
体調万全、頭から海水を浴び、脳みそも覚醒!いざパイミ崎へ。
少し漕いでいくと先のほうがあわ立っている。魚がもの凄くいっぱいいる様に見えるがこれは流れだ。
パイミ崎リーフエッジから西にかなり伸びている。カヤックの行く手をとうせんぼするかのように。
まー大回りしても状況は変わらないだろう。行くしかない。
パドルに力が入る。腰を回転させてパドリングを重くスピードをつける。
ほにゃ、、なんかいない。後ろにいた旅の仲間がいつの間にか旅立っている。のわーこんなときに、不吉じゃないか!
勝手に来て旅立つのも勝手だが人のテンション下げていくことはないだろー。、、完全に落ち込んじゃった。
もー忘れよう。もともと一人旅。あんなの旅の仲間だなんて感傷に浸ってた自分が甘いだけだ。パドリングに集中。
つつーとバウが右に左に。さっきの網取湾の流れがスケートリンクなら、こっちはスノボーのハーフパイプ並みだ。
バウにもう一人ホビットまんさくが乗っていて勝手気ままに漕がれてる感じだ。思わず、ブレイス。〔バランスを崩したときに
体勢を立て直すパドルワーク。水面を押さえつける感じ〕
カヤックなんて人から習ったことないし習うもんでないとも思っているから未だに詳しい用語なんて
知らないしあんまり興味もない。趣味で続けているサーフィンに関しても同じスタンスだ。
でもブレイスとロールだけは必要だろうなーと思っててコソコソ特訓してた。おかげで本郷さんからいただいた
この細身のレジェンドも一応使いこなせるようになったと思う。
不意打ちのロールも左右おかまいなくできるように頑張った。
うーん、こういうときにこそ技術は活きてくるのか。すこし感動。一歩成長。
網取湾よりも時間をかけてゆっくり慎重に突破。ヌパン崎の落石地帯まで来ると、まとまったうねりに変わる。
いやーこっちのほうが格段漕ぎやすい。それに漕いでて楽しい。前方にウビラ石がみえる。しかしダイナミックな地形だ。
山自体は200mほどしかないのだが崖っぷちがかなり急で緑に覆われた崖の面がところどころ剥がれ落ちている。
一気に海まで落ち込むような勢いだ。そしてその角度を保ったまま海中300m付近まで流れ込んでいく。
ものすごい潮の流れだろう。
そこに大型の魚も集まり、少し遅めのランチを楽しんでいることだろう。
大型って、、どのくらいかな?毎年石垣島のサメ狩りのときは
凄いのが上がるっていうもんな、、たしか4mとか5mとか、、このカヤックは5mちょいあるが下から見れば水面下は4mってとこだろう。
トローリングしてても15cmくらいの大きめのルアーに20cmもない小さいミーバイがかかることなんてザラにあるしなー。
魚類ってなに考えてんだろ?どうやって食うつもりなんだろ?
だけどライオンやチーターも自分より大きい
バッファローとか襲うもんな。蛇はでかいドブネズミ丸呑みするし、、つまり魚類も哺乳類も爬虫類も変わりないってことか。
ハラへりゃハイジもペーターも子ヤギのユキちゃんの足にかじりつく。クララもかじった。クララもかじった。、、、恐ろしい光景だ。
海の上に浮かんでいるときに変に理屈っぽく考えるとテンションはすぐにガタ落ち。
やっぱ海の男は明るく陽気に行かなきゃ!
港では酒と女が待ってるぜー!!全部俺に付けとけー出世払いじゃー!!
くらいの勢いがなきゃ、1人で海の上なんかに浮かんでられない。
がっつり漕ぐぞー!ばんない来いやー。
15:00 鹿川湾落水崎を回る
この辺を回ってるあたりから新たなイメージが膨らんできた。あまりにも計算どうり順調に行けている。
海の状況がいいからだ。こんな状況がいい時期はめったにないだろうな。
となれば今自分が置かれている恵まれた状態でもっといろんなことを試したい。
今一番知りたいのは自分の体力が力尽きる限界。どれくらい長く漕いで入れるか?
時速8kmくらいのペースをどれくらい保っていけるか?
当初の予定では7時くらいに大原港に着いて、アブちゃんとのみにいく。次の日波照間へ!って感じだが
この海の状態と自分の体調はすこぶるいい。
確か今日は満月だったような、、よし。このままナイトパドリングへ突入し西表島を1周して、次の日に
少し遅め〔午前中〕の出発で波照間に行けばいいのでは。なんて妄想が膨らんでくる。その方向で行こう!
いま思えば自分の計画性のなさと衝動的かつ楽観的ラテンノリの性格に活を入れてやりたいところだ。
大きな勘違いに後悔し闇夜の海の畏怖を体験することをこの時点では知りようもなかった。
16:30 トーフ岩付近
結構時間がかかった。トーフ岩という大岩がある。呼んで字のごとく真四角のトーフの形をしている。
ちょうど南海岸の中間地点に位置していたような記憶が、、この岩を通過目標とし探していた。
鹿川湾通過後は新城島下地島目指して漕いでいたので、少し沖合いにいる。なんか四角の大岩が
増えてやいないか?どれだったっけ?
そこを探していると体も自然とそっちむくようですこーしづつリーフに近寄ってしまう。
、、もういいや。トーフ岩、、どれでもよし!たぶん通過したハズ。
目線を下地島に戻す。軌道修正完了。
なんにも憂いがなく目標もしっかり定まっているときは全神経をパドリングに集中できる。
シーカヤッカーにとって一番楽しい時間ではなかろうか。
やっぱり出発前の下調べとコース取りは重要だ。頭も体もリラックスしてくるとブルッともよおしてきた。
そういえば水分かなり取ってるけど出してはいないな。すっきりしよう!尿瓶代わりのビニール袋をセットし開放。
ふー、リフレッシュ。そして海に流す。
こんな海のど真ん中で飛び降りるわけにも行かないし、万一、沈でもしたら一大事だ。
カメラやら何やらがボツになる。
ふと疑問が浮かんだ。
長く漕ぐときは自分はこの方法を取っているが、
女性はどうするんだろう?考えたこともなかったな。今度誰かに聞いてみよう。
どうするんだろう?やっぱ同じかな?むむむ、、どうなんだろう???思考のラビリンスへ突入。
あんなことやこんなこと、いろんなことが浮かんでくる。
むむー変態か、わしゃ。果てーしないーおおーぞらーと、ひろーいの大地のそのなかでー、、、メチャ不健康。
迷宮果てしなく、なかなか出られず小1時間ほど悩む。
18:00 豊原のリーフブレイクにしばし釘付け
前々から豊原に来るたびによさそうなサーフポイントがあるのではとぼんやり海を眺めていた。
ここのリーフもかなり広く南に出っ張っている。ここをよけるために鹿川地点から豊原より更に南の
下地島に目標を定めてこいでいたのだが、、、やはり気になる。
こんなべたなぎの日でもロングボードなら楽しめそうなメローな波がそこかしこでブレイクしている。
いつの間にかリーフ内へ入っていた。
ブレイクする場所の海中の地形を眺めながら漕いでいたのだが、、やはり思ったとうり最高の地形だ。
リーフ内から岩が緩やかに地中に伸びて落ち込んでいる。しかも全体的に。ここはおそらく超ビッグな
うねりにも耐えれる。台風の後の南うねりが残ったときにはここに来よう。間違いなく楽しめるはずだ。
しかしリーフエッジの波が立つ場所までがおそろしく遠い。2kmくらいあるのでは?パドリングで
30分はかかるな。
19:00 仲間崎でサンセットを迎える
豊原のリーフ内の突き出た暗礁を慎重に抜け、大原港の前を通る。
日中なら船の往来を見計らってストップ&ゴーで抜けなければ行けない危険地帯だが
今の時間帯になるとのんびりしたもんだ。この辺に来ると、もう思いは固まっていた。
ナイトパドリングで行けるとこまで行こう!
もの凄くワクワクしていた。すこーしづつペースも上がってきた。ムーンラーイト、ムーンライト、
パドリーング!いやっほー!テンションも急上昇。鼻歌も尽きてくる今時点では作詞作曲マイソングが
一番乗れる。体調も万全。筋肉は張るが、まだまだ行ける。というかもっと行ってみたい。
サンセット前に写真撮影とカロリー補給、巻き寿司セット一瞬でたいらげる。
今日は満月だし〔なんと大きな勘違いだったか!あとで痛いほど後悔する〕天候も問題ないだろう。
筋肉で漕ぐパドリングから、骨で漕ぐパドリングに移ってきて多少肩が痛むが昨日大量に鶏肉食ったし
軟骨もボリボリかじった。そっから補給されること間違いなし!前方に大きく伸びる大型積乱雲と水面近くまで
横に広がる、とりまきのような雲がかなり気になるが、、、
いや実はもの凄く気になっていた。大型積乱雲の中はたまに放電している。ここで僕は絶対にしてはいけない
判断ミスを犯す。
1、雷雲と分かってた。
2、東よりの風で西表島から小浜島ー石垣島にかけて雲に覆われていたのに気づいていた。つまり天候の回復は
望めないのを承知していた。
3、当初の予定では、ここで1泊するため仲間崎以降のプランを立てていなかった。
つまり目標物や注意すべきリーフ内暗礁を見直していなかった。
今から通るヨナラ水道は西表島ー小浜島間が2kmほどしかないし、リーフ内を避けた
安全に航行できるルートの幅は平均700mほどしかない。
リーフ内は西表島最東端ウ離れ島より始まり、座礁船、赤離れ島からの複雑で浅いリーフが上原港近辺のインダビシまで続く。
触るもの皆、傷つける西表島最大にして最長の、とがった10代思春期エリアだ。
国籍などお構いなし。外国の船までぶっ壊す破壊力。
ツアーで来ることが多かったため大丈夫だろうという油断があった。
4、満月だと思っていたが実は新月。つまり闇夜。
ナイトパドリングを考えていなかったため潮時しか気にしていなかった。
5、夜の航行で一番頼りにしなければ行けないGPSの扱いに未だ精通していなかったこと。
6、自分の周囲をとりまく環境がいかに危険に満ちているかをうすうす感じていながら、己の体力だけを
信じそれのみを判断基準の柱としたこと。
これほど不安要素と危険要素が満ち溢れた状態で、何事もなく無事に済ませたのは奇跡に近いことなのかもしれない。
9タイ1で闇と絶望が僕を包み込んでいた中を自力で乗り切ったなどと微塵も思ってはいない。
今回はたまたま海に生かしてもらっただけ。
以後絶対にこういった判断ミスを犯さないようにこのとき陥った
精神状態ととりまく状況を冷静に分析して今後に活かしていきたい。
恐怖ナイトパドリング
7:30くらいにアブちゃんより電話が入る。明日の波照間島の件だ。
いやー僕さ、体も調子いいしよー、このままムーンライトパドリングで1周行こうかと思ってよー。
少し計画変更する?
こっちも25日に予約入ったから波照間島で1泊はムリかなー。と虻川氏。
じゃー軽く黒島あたりにでも日帰りで行くか。確か今日満月だったよねー?アブちゃん。
あーうん、そーねー、いいねー、ついてるねー。と虻川氏。
じゃーなんとか気合で回って夜中の12時過ぎにはつけるかな。まーついたら連絡するんでまた。
今になって冷静に考えると全然会話のキャッチボールができていないではないか。しかも満月か新月かで
命にもかかわる重大な最終決定をこの男に投げかけたのが大きな間違いである。はっきりいって
全く気にもかけてなかったはずだ、この男は、、。しかもなんか飲みながら話していた感じだし、、
8:00を回ると一気に漆黒の闇が辺りを包んできた。
順調に漕ぎながらも何か違和感があった。
積乱雲があたりに立ち込めていたが、見上げた頭上には星空がとてもまばゆく
光っている。雲と山の稜線の見分けがつかめないくらい暗い。
キレイだなー、オリオン座はどれかなーなんて、感傷に浸れたのはほんの一時。
少しパドリングを止めて見上げていたのだが、すぐに視線を戻しパドリングを再開するときに
クラクラッとバランスを失う。今になってようやく気づいたのだがパドルの面の表裏の見分けが
つかないほどの闇。手探りで面を確かめる。こんなミスでバランスを崩したくない。
急に緊張感が沸いてきた。
バウすら闇夜の中に紛れ込み見えない。
水平線あたりに何かの目標物を探すが、海面と雲が溶け込みそのまま上空の星空までが闇に包まれている。
星に目標を定めて漕いでいたのだが目線を60−70度くらい上に向けながら漕ぐのは、意外と難しい。
灯台や小浜島の明かりはハッキリと見えるが、西表島は古見集落に少し明かりがあるくらいであとは山か雲かも分からない。
夜に漕ぐ経験はあるが、こんな漆黒の闇夜でのパドリングは初めてだ。
心拍数が上がる。
落ち着け、、そうだ!こんなときこそGPSを頼りに漕げばいいじゃないか。
手探りでGPSを取り出す。手元もおぼつかない暗闇で、わずかな希望をこめてスイッチオン。
ピコピコーって作動!、、、ん、、、暗すぎて画面が見えない。どんなに近づけても見えない。
のわーー期待していただけに大ショック!!パニック寸前。
いや待て。待てよ。たしか明かりを入れるスイッチがあったハズ。
もっとよく説明書よんどきゃーよかった。最新式のGPSも類人猿の前ではガラクタ同様。
もー知らん。乱れ打ちじゃー!
全部のスイッチをバシバシ押しまくる。
ピコピコ、ピロピロ、訳の分からない反応をしていたが、、少しすると静かになった。
何度押しても何の反応も音もしない。
終わった、、、
静けさがあたりを包み込む。
ふと気づけば後ろからボートが来ている。
んんあー、声にならない声が喉の辺りまでこみ上がっていた。
いや待て。まて。なに勝手に遭難気分になってんだ。
しっかりとカヤックの上に載っていて、装備的にはなんら問題なしのこの状況で。
助けてもらうには、それなりの状況ってなもんがあるだろうが。
転覆してボートにしがみついているとか、見た目にもすぐ分かる大けがしているとか。
第一、ボートが気づくわけがない。
シグナルライトでSOS信号でも送るか。
仮にボートが気づいて来てくれたら、なんていう。
いやー気分がよかったので、ついつい漕ぎすぎちゃって、、、気づけば真っ暗。僕とっても怖いんです。えへっ、、ってか。
これじゃー単なるアホだ。というか恥ずかしすぎる。時代が時代なら腹を切っているところだ。
こんなんで助けてもらったとしても、この先ガイドなんてやっていけない。
自力で何とか乗り切ろう。
GPSがダメでも、この辺はツアーで何度も漕いでいる場所。土地勘はある。落ち着いていけば、乗り切れるはずだ。
腹を決めたとたん、冷静になってきた。心拍数も正常だ。よしっパドリング再開だ。その前にGPSをしまおう。
電源をOFFにしようとスイッチを押すと今までうんともすんとも反応のなかった子がイキナリ返事ばシヨッタ!
ピロピローー、しかも明るくなった。そうだった。電源のスイッチが明るさ調節と兼用だったんだ。
すごいィー。こんなパニックの類人猿にもわかるように作られている。なんという優しさ。ガーミン社はほんとーに親切なんだなー。
まじ感動っす。助かりました。ガーミンさんがいるんならパインでもマンゴーでも送ってあげたいくらい、僕は今、大きな
愛と優しさに包まれている。
さー今はどこにいるのかなー、ってまじまじとGPSを覗き込む。小浜島と西表島の間のヨナラ水道を南から入ったばかりってとこか。
リーフ内を避けて大回りするなら4−5kmってとこか。うーん、こんなところ日中だったら秒殺で通過するところだが、
自然とは偉大なものだな。こんな身近で急所もちぢみあがるような素敵な体験を味あわせてくれるのだから。
よし、ヨナラ水道小浜島よりの青ポールに照準を合わせて漕いでいこう。
ポールだったら水平線の位置も問題ない。とても漕ぎやすい。
しばらく快調なパドリングが続く。
夜は長いし、また現在地確認のときまでGPSの電源は切っておこう。
遠くに見える石垣島の明かりはとてもまぶしく、なぜだか元気付けてくれる。
小浜島も石垣島ほどではないが明かりが点々と見える。
西表島はというと古見集落を過ぎた今となっては全く明かりなし。
たまに車のライトが通り過ぎていくくらい。
30分ほど漕いだであろうか?近くでザザーと波のブレイクする音が聞こえる。
おかしい?ヨナラ水道の深みを漕いでいるのに波がブレイクするはずはない。
おもむろにGPSを手に取り現在地を確認する。
なんてこった!!リーフ内に突入している。それも一番危険なウ離島のリーフ。
GPSに載っている干出岩なんて、ほんの一握りだ。コレをあてにして漕ぐなんて無茶だ。
実際には何倍もの数の危険な岩がいたるところに潜んでいる。
右側から聞こえる波の音はリーフエッジのサーフゾーンに違いない。
年中、波乗り大好きラテンな僕も今のこの状況でカヤックで波乗りを楽しむ気には、どんなに前向きに明るく振舞ったとしても
なれない。
危険すぎる。
ただでさえバランスを保つのに一苦労なのに、、、
GPS片手にしばしボーゼン。
なんでだ??どこでコースを間違えたんだ。
小浜島の青ポールといえばかなりの回り道安全ルートなハズなのに。
そうか、体が無意識に近道である西表島よりになっていたのか。
何かで聞いたことがある、灯台などの目標物が横にあると大回りしなければいけないルート取りのときも
無意識に体が灯台に引き寄せられてしまい事故になるってことを、、、それか。
いや今は原因を追究しているときじゃない。危険地帯に入り込んでしまった事実は変えようがない。
なら全神経を打開策に向けるしか手はないだろう。
どーする?回り道して深みに戻るか?それともリーフ内をゆっくり感に任せて突破するか?
二つに一つ。
たった二つしかない選択肢を選ぶのに、もの凄く時間がかかったように感じる。
漕ぐ手が止まったカヤックが1艇。西表島の近海に浮かぶ。
突然、目線のあたりまで水が盛り上がった。
ズガーン!
バウのあたりに得体の知れない物体が体当たりしてきた。
とっさにブレイス。かろうじてバランスを保つ。
な、な、なんだー、今のは。落ち着けー!こんなときはジッとするのが一番だ。すべてが落ち着くまで待とう。
過ぎ去ったかと思っていたさっきの物体をパドルから感じる。
カヤックの周りがザワザワ波打つ。
やばい、まじで、やばい。なんか知らんがデカイ。
だーーー!
猛ダッシュでパドリング。
一番してはいけない行動だということも分かっていた。
でもせずにはいられなかった。
少し追っかけられたような気もするが、しばらくして落ち着いてきた。
そうだ、ここは危険地帯のド真ん中。
無謀なパドリングは更に状況を悪くする。
パドリングの手を止める。
バランスが取れない。ふらふらとカヤックが揺れる。
下半身に力が入っていない。両のひざが小刻みに震えていた。
完全にこころが折れた、、、
こんな状態で残り30km近く漕ぐのは不可能だ。
今回は残念だがチャレンジを中断しよう。
こんな行き当たりばったりのノープランで今まで無難にこれたこと事態が奇跡に近いことだ。
どこか近くにエスケープルートを探して上陸しよう。
とにかく状況を再確認せねば、、、GPSの電源を入れる。
ウ離れ島のリーフの奥のほうまで来ていた。
すぐとなりにウ離れ島があるはずなのだが目視できない。
GPSに長く目を奪われると、いざ闇夜に戻したときに灯台の火以外なんにも見えなくなる。
もーここまで奥に入り込んでしまったら戻って外海に出るのも難しい。
それにさっきの一撃で完全にハートが砕け散ってしまったし、、、
リーフ内を慎重に漕いで、どこか安全に上陸できる場所を探すしかないな。
灯台が2−3本、前方に見える。おそらく船浦港前のポールと鳩間島の灯台だろうな。
そのうちの一本。一番西表島よりのものの海底は緩やかな棚になっている。
おそらくサーフブレイクはないだろう。これを目標に漕ごう。
気を取り直してパドリング。足には力が入らないが漕いでいるうちはカヤックも安定する。
しかし、この地雷ゾーンを何の確信もなく漕ぐことはできない。
運に身を任せるといった行為は考えうる全てを配慮し行動したあとの行為だ。
どうやれば、確信を持って漕げるだろうか?
そうだ、光だ。幸い今日はほとんど波立っていない。そんな中で自分の目線に近いところの光に
目標をあわせれば、コース内に入ってくる障害物は光を妨げ見えなくするはず。波ではない障害物は
危険な岩ってことだ。光が妨げられれば少しコースを変え光が見える位置にカヤックをずらせばいい。
確実とはいえないが、コレにかけるしかない。
気持ちの上で確信は得た。
あとは前方に見える明かりに向かって一直線。
ゆっくり漕がねば、ゆっくり漕がねば、、頭の中では分かっていても体は力みパドルにも
力が入る。
もーこうなりゃーチャー漕ぎじゃー。
何分くらい漕いでたか覚えていないが、とても短いようで、、、
顔は力み、自然とアントニオ猪木チックになる。
しゃー来い、しゃー来い、って叫びながら漕いでた。
ズザザー、、、
安堵のときはイキナリ訪れた。
ビーチに上陸していた。
力が抜ける。でもパドルは握ったままだった。
ぬぅおおー、だああー、うぉあああー、
少しして辺りを見回した。
まーもしも誰か近くにいたとしても、こんなへんな雄叫びを真夜中に上げている奴に
近づいてくることもないだろう。
目標としていた明かりは西表島最東端の高那にあるレストランの
外灯だった。こんなにも明るいんだ。大げさかもしれないがこいつに助けられたんだ。
ほんっと有難う。有難う高那レストラン。いつかフルコースで食べにきます。
ほっとするとさっきまでの緊張感が失せて急にハラがグルグル鳴り出した。
今日はスーパーのオニギリセットしか食べていない。
明日の件もあるしアブちゃんに電話して迎えに来てもらおう。
そんで、どっかの居酒屋でカロリー補えばいいや。
期待を込めて電話をかける。さいわいコノ場所は電波の感度もいい。
10:00前くらいだった。
アブちゃんさー、今からどっか飲み行こうよ。スッゲーはらへって倒れそうなんよ。
あれー、うなりざき〔スタート地点〕に戻ったん?と虻川氏。
いやいや、もうさー、ちょっといろいろあってよ。いま高那のビーチに上陸したんよ。
もうこれ以上は今日はムリかなーって判断してよ。、、で迎えに来てよ。
、、、なにそれ?一度遠征にでたら例え失敗したとしても、どっかのビーチで野宿でしょ。
それがカヤックの遠征ってもんでしょ!、、声がうわずる虻川氏。
、、、、むぅ、
ただ単に迎えに来るのが面倒だって気持ちが前面に出ているが、なぜか「うーん、そうだな。」って
納得してしまった。
完全に、奴のめんどくさがり根性に押し切られてしまった。
こころが弱っている。
命にかかわるようなこと以外、自分で何とかしろ!それが遠征ってもんだ!、、虻川氏。
まちがいなく、奴は今、酔っている。女の子とキャッキャッ呑んでいるに違いない。
どんどん語句も強くなっていくし、自分の言葉に酔いしれているに違いない。
カヤックの単独遠征なんか行ったことのない野郎に受ける説教、しかもなぜだか説得力に満ち溢れている。
、、、はい、分かりました。では死にそうなとき以外、電話しません。
そうっ!それが遠征よ!、、虻川氏。
、、、もー分かった。しつこい。、、電話を切る。
なんだかうまく丸め込まれた感じだが、奴のいうことももっともだ。
たしかに人に甘えていた。
一人で海に漕ぎ出したんなら一人でなんとかしろ!
そのとおりである。
何がおきても自己責任。そのかわり感動と達成感もでかいのがシーカヤックの魅力だ。
しょーがない。今夜はここで野宿だ。
一応こんなこともあろうかと思って、キャンプを10倍楽しめるセットは持ってきている。
とりあえず降りるか、、
カヤックから立ち上がろうとした瞬間、フラフラーとよろけた。
そうだ、今日は丸1日カヤックの上だし、最後の得体の知れない物体の一撃で完全に腰が砕けた。
カヤックの上だったから、よかったものの、あれが立った状態だったら腰を抜かしていたかも知れん。
そのぐらいのビビリかただった。
感潮ラインより2,3mうえにタープをしき、そこに荷物を運び、半分は荷物スペース。半分は寝床にする。
こうすれば、もし雨が降ったとしてもタープにくるまり、やり過ごせる。
いつもの野宿準備を終え、カヤックを感潮ラインより上に運ぶ。
むむーー、重い。海水も入っているし、非常用の水がまだいっぱい残っている。
肩に乗せ何度かはこぼうとするが、、、む、む、ムリ。いいや。
アンカー打って係留しておこう。風もないし問題なし。
野宿のとき、寝る前はいつも体を洗う。小さめのタオルを頭にのせ、少し水を含ませる。
頭から足まで真水で拭く。コノやり方だと、300mlくらいで全身拭ける。そして快適。
夜風が風呂上りのように気持ちいい。長い遠征でもコノやり方だと清潔さを保てると信じて、
いつもの習慣にしている。
そして着替え。寝るときは必ずつなぎ。上下繋がった作業着。ポケットも多いし首や手足の口が
ぴたりと閉まる。虫の侵入もある程度防げる。なにより、腰まわりのスレからできたミミズ腫れ
の部分にあたらないところがいい。わきの下は今回はなんの問題もなかった。〔サーフィン1日中
してるときは、いっつも脇のスレで悩まされるんだが、、、長時間のサーフィンやカヤックのときはワセリンを
ベッタリ塗っている。脇やら、股やらすれそうな部分には全て〕
顔にはタオルを乗せ防御。手足はしょうがない。リンクフリーだ。
やりたい放題吸ってくれ。腹いっぱいになって去ってくれるのを待つ。
横たわってみたものの、目はパッチリ。心臓バクバク。こんな状態で寝れるわきゃーねぇー。
おもむろに立ち上がりビーチを徘徊。別に意図はない。
そのまま高那レストランへ。
案の定誰もいない。、、、さみしい、、
そのまま道路へ出る。
少しするとハイビームの車が猛スピードで来る。
うおぉー、人じゃー、、なんかうれしい。思わず道路に飛び出す。
ハイビームの車は得体の知れないツナギ姿のボーズの出現にびびったのか、更にスピードをあげ
僕の横をビュンビュン飛ばして去っていった。
あやうく轢かれるとこだ。
命からがら上陸して車に轢かれちゃー笑い話にもならん!
葬式でも笑いをこらえる気の毒なやからがあつまることだろう。
シーカヤッカーって大変ねー。海の渡りかたは知ってても道路の渡りかた知らないんじゃーねー。ププッ
すごい人だったわねー。現代に生きてなかったもんねー。ベランダで生活してたもんねー、あの人。ププーッ
、、、想像するだけで恐ろしい。罵声や笑い声が頭の中に響く。
、、、いかん。今の僕は病んでる。おとなしく、ジッとしているのが賢明だ。
道路の向こうに自動販売機を発見!すぐさま急行。
コ、コーラが飲みてー。
財布がないことに気づく。
カヤックの中だ。
トボトボとりに戻る。
とりあえずコーラを、駆けつけ一気で2本飲み干す。
やっぱ、こんな疲労困憊したときはジャンクなコーラが一番だ。
学生のころ自転車で九州一周してたときも今と同じように疲労困憊してたっけ。
あんときは人生で初のコーラ1,5Lボトル一気したもんな。
九州は峠が多いので、自転車ツーリングには最悪だった。
福岡のバイト先の副店長がイタリア製のマウンテンバイクを見せびらかしていたもんで
〔おそらく、どっかからパクッてきたのだろう、悪い奴だったからなー〕僕にもちょっと乗させてよー、
って軽い一言で旅が始まった。
制服に着替える前だったので軽装で行けた。
漕げば漕ぐほど、いい自転車だってことが分かった。
もー夢中になって漕いでた。
確か昼に軽い気持ちで乗ったのだが、気づけば夕方。
熊本との県境。
、、、また、やってしまった、、、
公衆電話からバイト先に電話をかける。
もちろん怒っている。目の前で自転車をかっぱらわれた挙句、バイトもぶっちぎり、
おまけに今から1週間くらい旅に出るとほざいているのだ。
怒って当然だ。
しかし向こうも、衝動的ラテン系の僕をよく知っている。長い付き合いだ。
分かった。もーいいよ。とりあえず自転車は返せよ、壊すなよ。と副店長。
その後、何の準備もなく出発したことを後悔することになるが、、、それはまた別の夕暮れにでも。
高那レストランの入り口によさげな屋根を見つける。
今日の寝床、決定だ!
荷物を入り口に運ぶ。
ラジオを聴きながら、横になってくつろぐ。
コーラの缶をラジオのアンテナさす。こうすれば感度がビンビンよくなる。
あいかわらずアドレナリンは出っ放し。眠れそうもない。
肩が少し痛むので、のんびりストレッチに励む。
結局、朝4:00すぎまでストレッチしていた。
眠れたのは1時間くらい。
朝5:00過ぎには、いそいそとレストランの入り口をあとにする。
もちろん感謝の気持ちも忘れない。少し玄関を掃いてきた。
もっとのんびりしたかったのだが、そうもいかない。
万に一つでもレストランスタッフと遭遇したら、、、と思うと。
いやっ違うんです。決して怪しいもんじゃーないんす。西表の人間なんです。
シーカヤックで軽い遠征に出て、、えっと、、えっと、、
まちがいなく通報されるだろう。それに説明もめんどくさい。
6:30くらいになると水平線が赤く染まってきた。
石垣島の上空には昨日の積乱雲が今も残っているが、こっちのほうは昨日よりはいい天気だ。
ただ、あの雲がまたいやーな雰囲気をかもしだしている。
降ったるでー、見えんくさせてやるでー、あざ笑っているかのよう。
カヤックへの荷物の積み込みと、点検を済ませて、もう一度空を見上げる。
うーん、あまり変わりなし。
負けてたまるかー、カヤックは魂で乗るもんじゃー、気合じゃー、晴れろ!!!
朝の祈祷が始まる。
魂で踊る。イリムティアン、ネイティブ、ダンス。
怒髪こそなかれ、ボーズの気合も天まで届いたようだ。
すこし晴れ渡る。が、石垣島にはあいかわらず発達した積乱雲が伸びている。
しかも東の風。つまりやつらは確実にやってくるわけだ。
早く出よう。、、む、待てよ。この判断は昨日の二の舞では、、
これでまたカミナリ雲にやられたら、何の成長もない類人猿のままである。
うーん、、うーん、、、
まっいっか。太陽は出てるし、、風も4−5mほどだ。
まーったく、問題なーし。出発!!
、、、そして今度はスコールと濃霧に追われることとなる、、、
翌朝7:30 出発
昨日は結局60kmくらい漕いだ。
のちにGPSでアバウトに測ったところ西表島の周囲は80-90km程度。
昨日11:00に出発し、高那到着が夜9:30くらいだ。
夜8:00以降は半狂乱のパドリングだったので、参考にはならないが
60kmを10時間くらいで漕いでいるので平均時速6kmくらい。
30分に一回は1分くらいのんびりして、1時間に1回は3,4分のドリンク補給と
写真を撮っていた。
実際のパドリングのスピードは8kmくらいってとこだろう。
これが今の自分の平均時速ってことか。
体力的にはまだまだいける。
メンタル面の限界は、すぐに見えたが、、、
今後の課題はメンタル面の強化だな。
メンタルは近場での練習などでは養われないだろう。
実践あるのみ。
実践の海で想定外の場面に遭遇して、それを乗り越えなければメンタルは
強化されないだろう。これはサーフィンにも同じことが言える。
ハワイアンのビッグウェーバーは電柱ほどの波にも乗るのだが、その訓練は
半端なものではない。訓練中に死ぬものもいるくらいだ。
そして彼らは波が小さくコンディションがよく、みなが楽しめる日には海に入ろうとしない。
小さい波に体が慣れると、いざビッグウェーブに直面したときに体が動かなくなって
しまう、、というのだ。つまり自分の行けるギリギリのところを常に保ち、
1つとして同じ形のない波に毎回直面することによってのみ成長する。そして、どんどん
ビッグな波にチャレンジしていけるんだ。、、、と彼らはいう。
穏やかな日のカヤッキングも好きだし、ハードな状況のサーフィンも大好きだ。
遠征しか興味がないわけではない。釣りしながら、スノーケルしながら、のんびりカヤックも
大好きだ。ただ自分の幅を、もっともっと広げたい。行ける場所をもっと広げていきたいという
気持ちが常にある。
カヤックの性能は、おそらく完成されている。
あとは乗り手しだいだ。
乗り手の体力や技術はもちろんだが、一番重要なのはメンタル面だとおもう。
頭の中に常識という小さな枠ができていて、いつもその枠の中におさめて考えようとする。
常識などというものは自分の少ない経験と世間一般の憶測や推測のかたまりで
実践では役に立たないケースが多い。
僕の頭の中も同様、この小さな枠でがんじがらめになっている。
この小さく複雑な知恵の輪を、ひとつづつ外していくことが今の自分の課題だろう。
長い点検ともの思いにふけったあと、ようやくカヤックに乗り込む。
肩まわり、腰ともにすこぶる調子がいい。
まー当然といえば当然。昨日は5時間近く寝ずにストレッチしていたようなものだからな。
ひざの震えもなし。昨日はトラウマになるかってくらいテンションガタ落ちだったが
問題ないようだ。よーし、パーと漕いで昼飯は片桐さんとこで腹いっぱい食わしてもらおう。
残り20kmちょっと。暗礁は見えているし今は満潮。怖いもんなし。秒殺じゃー!!
まずは鳩間島に向けて1直線。かなり大きく回る。
とにかく浅いところは漕ぎたくない。流れも変だし、気分よく漕げないからだ。
鳩間島に向かう途中に広く浅いリーフを何個も抜ける。
今日も波はなく穏やか。べた凪だ。ずーと下を見ながら漕いでた。
水深8mくらいまで見えている。それより先は暗くて見えづらいが。
満潮だからか小さい魚の群れがピョンピョンはねている。
まるで水先案内をしてくれているようだ。
いっぱい魚が集まっているんだろうなー。活性も高そうだなー。
竿を握りそうになる。
いかん、今は漕ぐときだ。どのぐらいの速さで漕げるか確かめながら漕ごうって
昨日から思ってたし、さっき出発前にも再確認したばっかりじゃーないか。
無心のパドリング。
目の前にサバニが1艇止まっている。船の上からうみんちゅが海底を探っている。
少しすると潜る準備をし始めた。
やっぱ魚多いんだろうなー。
ふと、下を見ると水深5mくらいのところを馬鹿でかいやつが、すーとカヤックを横切った。
だーー辛抱たまらん!
キャスト、キャスト、ひたすらな竿を振りまくる。
あれはガーラの類に違いない。あの太さはすごいぞ!
ブンブン竿を振り回す。
うみんちゅが、ジーとこっちを見ていた。
うみんちゅは潜ろうとはせず、ふっと上を見上げて、その後すぐに去って行った。
こんなに魚いるのにナニやってんだか?
不思議に思って僕もふっと上を見上げる。
なんだー晴れてるじゃないかー。びっくりさせんなよ。
すこしリラックスし背伸びした。
目線は上空から後方の空へ、、、
ぬ、ぬ、のわー、、、
後ろから真っ黒な雲が近づいてきている。
水平線に近いところ上空すんごい高いところまで伸びている。
これは昨日やられた積乱雲よりもデカイ。
後方の景色が見えなくなっているから霧もひどいのだろう。
しかし、さすがはうみんちゅ。逃げ足も速い。
あれも偉大な先人たちから受け継がれてきた知恵ってやつなんだな。
大きな自然の前では小さな自然はかなわない。大きな自然とうまくやっていく知恵を
身につけることが大事。
リールを巻き、竿をしまい、パドリング開始。
陸に逃げ込むこともできたが、雲はまだまだ遠く南東からやってきているので
目標の鳩間島から少しルート変更。近道を通るような感じでバラス島を目指す。
多少リーフの上を通ることになるが水深もたっぷりあるし問題ないことだろう。
もーガンガン漕いだ。漕ぎ始めて、少しもたっていない頃なのでスピードもガンガン上がる。
8:50くらいにバラス島着。
後ろを振り返れば、さっきのスコール雲はまだ南。
この辺はサバニも2艘止まっていた。
ツアーの船やダイビング船は見当たらない。
9:00過ぎたら、この島も観光客で埋め尽くされることだろう。
とりあえず、記念撮影。
鳩間島を過ぎてからは真西に進む。
星砂海岸のとなりのニシ崎のリーフが北に大きく突き出ているので
それを避けて水深のあるところを通りたいからだ。
さっきのスコールはまだ南にあるが、鳩間島の上空にも真っ黒い雲がかかっている。
鳩間島の雲のほうが厚いし霧がすごくてなんにも見えなさそう。
うーん、完全に挟み撃ちにされてしまった。
不安に駆られながら漕いでいると僕のとなりをサバニが2艘、ススーと通っていった。
げぇー、、さっきのサバニやんか!
もう避難するわけぇー
いつのまにか陸に近いところを漕いでいた。
ニシ崎のリーフにはまる。
またしても、何とか現象に陥ったというわけだ。
昼だろうが夜だろうが関係なし。
原因は僕のうちにあるからだ。
この心中の虫を追い出さなければ冷静な判断はおろか
陸上の生活においても支障をきたすことだろう。
まー、でもいいか。この辺は僕の庭やんか。
トレーニングで漕いでるときによく来る場所だし、サーフポイントでもある。
西表島全体が庭だとしても、この辺は鉢植えを置いているような場所だ。毎日見ている。
手入れの行き届いていない茂みがパイミ、鹿川あたりってとこか。
そう思うとなんだか、平気になってきた。
こんな庭でやられるわきゃーねー。
闇夜のナイトパドリングも初体験だったが、このさい濃霧も味わっとくか。
ひとりっきりで濃霧にスコール、GPS片手にどんぐらい漕げるか試してみるのも一興だ。
よーし、おまえら待っちゃる。はよーコイヤー!
とりあえず、釣りでもしてみた。
やっぱりリーフエッジは魚が多い。
ちらちら雨雲みながら釣りして余裕かましてみる。
内心不安、でもコレに打ち勝たねば、、
、、、カツン、、、
ルアーが根がかった。
おいおい、こんなときに冗談だろ。
くいっくいっと竿を振っても取れない。
竿を胸に差し、ルアーが根がかったのと逆のほうに漕ぐ。
たいてい、この方法で取れるんだが、、、、取れない。
ぐわー、、もうこんな時に、、もう、しょーがない。ルアーはいいや。とりあえず早くこの場を脱したい。
ぐんぐん引っ張る。7号のラインはなかなか切れず、取れずで、根がかった上を通過。
少し風も吹いてきた。ポツポツ、先発隊もやってきた。
、、あせる、、
ぐおー、、と力任せに引っ張る。これで切れるだろ。
、、ペシッ、、
なんと、竿が折れた。しかもラインはまだ繋がったまま、、
もーなんじゃーこりゃー、、
くそ、くそ、、
手でラインをたぐり、思いっきり引っ張った。
プツッ。
切れるンが遅いんじゃー、、おかげでこっちがブチきれたわー!
、、、いかん、こんなことで狼狽しては、、
もともと自分が悪いんだ。
漕ぐのか、釣りするのか、サーフするのか、その時その時の気分でコロコロ変わるからいけないんや。
そうだ、朝出発前に漕ぐって決めてたじゃないか。だいたい釣具もってきた時点から間違えてるってもんだ。
て、ことは昨日の出発のときから間違ってたってことか。いや、その前に昨日の朝6時に出発すれば、なんの
問題もなかったんだ!昨日の夕方には1周終えていたはずだし、、、あーホント行き当たりばったりだな。
もーいかん。いろいろやっていてはテンションが下がるどころか、己のアホさ加減があらわになり立ち上がれなくなる。
ガンバレッまんさく!お前はいいとこもいっぱいあんぞ!
、、っえ、いいとこってどこ?、、
、、、むぅー。
ないんかい!
、、、今ぼくの頭の中は完全にネガティブまんさくに支配されている。
漕ぐのに集中だ。残り30分もかからないとこまで来て、こんなに意気消沈することもない。
とにかく漕ぐんだ。他のことに気をとられるんじゃーない。
鳩間島のスコールは東の風にあおられてか西表島の北の海上を真っ黒く染めてはいるものの
西表島にかかるのはまだまだ時間がかかりそうだった。後方の積乱雲&スコール軍の進行は
やや遅かった。ようやくバラス島の向こう鳩離島近辺を集中攻撃している最中だ。鳩離島も
断固として固く門を閉ざして籠城のもよう。まだまだ持つだろう。
今のうちに全軍撤退。しんがりはバラスに任せた。
星砂のリーフは多少波が割れていた。
いつもサーフィンしているが、ここは北ー北東のうねりのときが一番いい。
今日は多少北東よりのうねりが入っている。といってもサーフィンはムリだな。ロングで
少し遊べるくらいかカヤックでうねりから乗るかって感じだ。結構長く乗れるだろう。
風がないので、いいブレイクだ。
、、、すこし乗っていこうかな、、
リーフエッジに出ようとバウを右に向けた。
はっ、、いかん、、いかん。ナニやってんだ。さっき竿折ったばかりじゃーないか!
今度はカメラでも水没させるつもりか?おのれは、、、、余計なこと考えんと漕げ、漕ぐんや!!
後ろを見れば鳩離島はすでに落城、バラス島も風前の灯だ。
ぜんべいのリーフもうなり崎のブレイクにも目もくれず、今度こそ気を引き締め、漕ぐこと30分。
ついに到着。うなり崎のスロープ着10:00前。
出迎えは地元の小学生の女の子2人と野良犬が1匹。海で遊んでいた。
いやー疲れた。カヤックを降り、しばし海に浮かぶ。
スコールはまだ来ていない。〔12:00くらいから土砂降りになり雷も落ちる。〕
耳まで水につけ音のない世界で今回のプチ遠征をふりかえる。
いろいろあったが結果よければ全てヨーシ!
あとは忘れないこととあきらめないことだ。
次回は石垣島1周遠征だなー。
石垣島は6月にプチ遠征で行ったが、北ー東側はまったく未開だ。
なんとも楽しみが尽きない島々だ。
9月くらいに行く予定ですので、それはまた次回に。。
終わりに
こんなに長い文章を読んでくださって、感謝です。
これを見て、なんだかシーカヤックって楽しそうだなって思えていただければ幸いです。
このガイド大丈夫か?って思う方もいるかもしれません。
少し言い訳をさせていただきますと、20代頃の駆け出しガイドのときは
確かに経験も不足していたかと思います。
ですが、それを補うべく日々いろんなことにチャレンジし
ガイドまんさくのパドリングライフもサーフィンの頃から数えると20年以上の月日が経ちます。
安全面や技術面に関しても、胸を張ってコノ道で生きている。と言えるくらいにはなりました。
今後の目標としましては、世界にも誇れる西表島というフィールドで、顧客満足度No1のショップに
していくことです。
西表島旅行の際は、まんさくツアーにぜひお立ち寄りください。
ではでは、よんなーよんなー西表島で待ってます。